古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#015 苧うに 

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苧うに

 苧うに、の「苧」は苧麻(からむし)のことと思う。イラクサ科の多年草で栽培もされ、茎の繊維を織物などにも用いる。苧は「を」の字を当てる。日本書紀からその存在が確認でき、日本人とは付き合いの長い植物である。江戸時代にはこの苧麻の専売権を潜ってひと騒動起きたほどであった。現在では、福島県会津でのみ栽培されているとか。小千谷縮の原料でもある。

 この妖怪を覆っているのは、毛ではなく苧麻の繊維だろう。苧の束が妖怪になったものなのだ。付喪神のようなものか。

 勝手に描き足した昆虫はフクラスズメという蛾で、苧の害虫である。妖怪になるくらいだから、古い繊維に蛾が発生している様子を思い浮べて描いた。納屋などにそんなものが置きっぱなしになって朽ちていたら、それはもう気持ちが悪いと思う。

 身近なものには様々な人間の営みが反映させるので妖怪になることも多い。そんな中では「最古の付喪神」とも言えなくもないのが、この苧うにではないだろうか。

図:佐脇嵩之『百怪図鑑』より