古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#016 夢の精霊

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夢の精霊

 資料によって、「夢の精霊」「骨の精霊」と意見が分かれるが、幾つかの説話集から読み取れる情報から推察して、「夢の精霊」と解釈する。

 有名な説話。滋賀県は琵琶湖でのお話。ある僧が、加茂神社の供物用に捕らえられた大きな鯉を不憫に思い、大金をはたいて買い取り、湖に逃がしてやった。大いに満足してその夜は眠ったところ、夢に老人が現れ大変な怒り様で彼を責める。「意味が分からん。感謝はされても責められることはない」と反論すると、「私は難儀な鱗の身を授けられて500年、この度、神の供物となることでやっとこの生を終え、新たに生まれ変わる筈であったところ、その機会をお前に奪われてしまったのだ!」と言ったという。

 独りよがりの善行に注意されよ、という話。

 説話では、神仏と人、霊と人が同じ空間で接触することは非常にまれである。殆どが「夢の中での接触」である。恐らく「夢」とは、物質世界と精神世界との中間点と位置付けられている「共有空間」なのだと思う。だから例えば、「現世界に仏が現れたと思ったら、ムジナだった」という話は多い。この世界で出会う仏の殆どが偽物、まやかしものである、という考えは、今の世界には大きな皮肉になるのではないか。

 因みに説話で現実世界にまで現れる霊は、たいてい悪霊である。恨みの力が強いと、こちらの世界まで出てくることができるという事か。

 また、夢に現れるときは、動物でも人の姿をとることが多い。すべての物には神格が宿っているので、夢では同等な存在であると言う事か。そのあたりの研究をしている方がいらっしゃったら、お話を聞いてみたい。

図:佐脇嵩之『百怪図鑑』より