古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#001 見越入道

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見越入道

 見上げるほどに大きくなっていく、入道の姿をした妖怪。江戸時代には「妖怪の総大将」という役割を与えられ、イラスト、仮名本など当時の創作物に多く登場している。民間の伝承では狸が化けたもので、見上げすぎると喉笛をかまれるとか、大きくなった時に足もとを攻撃すると撃退できるという話が多い。見上げ入道、次第高、高入道、のびあがり、のりこし、見越、など、様々な呼称で同様の怪が語られている。

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 人は、集団での立場が上になり、下から見上げる者が増えていくほどに、気持ちも立ち居振る舞いも大きくなっていくものである。自分の意志には関係なく、どんどん周囲から担ぎ上げられ、「見越し入道」ならぬ「神輿に乗った大将」となる。周りを「見下し」態度はどんどん高圧的になってゆく。…実際はそこまで大した力量を持っていなかったため、最後に足元を掬われて失脚することもある。
 物理的にも心理的にも、位置が高くなればなるほど、落ちた時のダメージは大きくなる。巨大化と消滅、栄光と転落は必然の展開だ。気まぐれに人を高みにまで引き上げ、器が立場に合わなければ容赦なく転落させる、そんな社会構造の高低差そのもののような妖怪なのか…と思って楽しんでいる。
図:佐脇嵩之『百怪図鑑』より