「目も鼻も口もない肉の塊のような妖怪」と、どの本にも書いているのに、どの本の挿絵にも胴体に顔っぽいものが書いてあるのは何故なんだ? という突っ込み必至の妖怪。オリジナルにせよ二次創作にせよ、まあ大体描いてある、顔に見える皴が。
私も人生最初の展覧会では、ペン画で本当に顔がないものを描いたが、その「描かなかったこと」に対する気持ちの悪さが本当に半端がなくて。下着をはかずにズボンをはいたような、何とも言えない「足らない感」に襲われ、顔を描いたバージョンを作ってしまったぐらい。
それこそがこの妖怪の妖怪たるところ、「ある筈の物が無い怪異」の中でも最たるものが、「顔の欠如」なのだと理解した。生物学的にも、基本的には動物は、顔や目が確認できないものに警戒を解くことがないし、人なら心を許さない。防衛本能を正面から刺激するものが、意思疎通の器官「顔の欠如」なのだと思う。
「ぬっぺっぽう」としての伝承は殆どないが(肉人、はよく関連付けられるが別にぬっぺっぽうではない)どの妖怪図鑑にも必ず乗っていて、それなのに「解説に反して顔がついている」という、生物の本能を根本から刺激する、これもまた「根源的な妖怪」である。
図:佐脇嵩之『百怪図鑑』より