生前悪いことをした人の葬式の最中に出現し、遺体を棺桶から奪って地獄へ直行するという鬼。彼が引っ張っているのが燃え盛る「火車」であり、鬼そのものは「タクシーの運転手」のようなものである。名前がついている話を聞いたことはない。
絵によっては、猫に似た姿をした鬼で、死者を担いでいるものも見かける。こうなると車はどこにもないわけだが、おおむね「肩車」をして連れて行くのだろうか。この場合は鬼が火車そのものなのだろう。
興味深いと思うのは、死者なのに、魂を地獄に連れていくのではなく、その体までも地獄に連れて行くところで、それはやはり、魂だけが地獄に行くより悪く、屈辱的なことだったのだろうかと思う。「死者の体に辱めを与える」事は、古今東西、確かに行われてきたことなので、そういう発想がこのような怪異の形をとって現れたのかなと思う。
図:佐脇嵩之『百怪図鑑』より