古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#008 火車

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火車

 生前悪いことをした人の葬式の最中に出現し、遺体を棺桶から奪って地獄へ直行するという鬼。彼が引っ張っているのが燃え盛る「火車」であり、鬼そのものは「タクシーの運転手」のようなものである。名前がついている話を聞いたことはない。

 絵によっては、猫に似た姿をした鬼で、死者を担いでいるものも見かける。こうなると車はどこにもないわけだが、おおむね「肩車」をして連れて行くのだろうか。この場合は鬼が火車そのものなのだろう。

 興味深いと思うのは、死者なのに、魂を地獄に連れていくのではなく、その体までも地獄に連れて行くところで、それはやはり、魂だけが地獄に行くより悪く、屈辱的なことだったのだろうかと思う。「死者の体に辱めを与える」事は、古今東西、確かに行われてきたことなので、そういう発想がこのような怪異の形をとって現れたのかなと思う。

図:佐脇嵩之『百怪図鑑』より