古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#023 牛鬼

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うし鬼

 西日本を中心に伝説として伝わっている妖怪だがその物語を聞く限り、または各地に残されている牛鬼祭りの山車や民芸品を確認する限り妖怪絵巻に描かれた形状とはかなり異なる妖怪であるように思われる。

 伝説での姿は「ウシオニ」と聞いたら誰でも自然に想像できる凶暴そうな牛または牛の体に鬼の顔または牛の顔をした人間(羽根がある)という姿で「蜘蛛を連想する6本脚」の伝承は意識したことがない。(石燕はそのあたりをよく心得ていたのか鬼のような牛である「牛鬼」を描いている)。

 顔も牛っぽくはないので弧を描く1対の角だけがこの妖怪を牛らしく見せていると言うことになる。蜘蛛のような(いや海の妖怪だとしたら一番似ているのは本当はタラバガニだ。足も3対だし)イメージの出どころは不明である。牛と蟹の共通点を探ってみたが、①高級食材、②星座、と、恐らく妖怪とは関係なさそうだ。蜘蛛の場合はもっと接点はない。

 平安時代にはその名称があったので(枕草子に見られる)中世に人気のあった妖怪「土蜘蛛」との関連を指摘する説もある。ちなみに土蜘蛛草子の土蜘蛛のデザインは、どう見てもカマドウマかコウロギなのだが。

 「ぶっちゃけ江戸の人はとにかく怖い形を考えて適当に名前を付けていっただけなんでしょ? 初期のウルトラ怪獣みたいに」とは、子供のころからうすうす気付きかけている解釈であるが…。妖怪研究者はシャーロキアンと一緒で過去の文献を聖典として解釈したがるから、私も含めて大変である。

図:佐脇嵩之『百怪図鑑』より