古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#019 ぬけ首

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ぬけ首

 まず初めに名前とのギャップに驚く。「首、抜けてないよ!」と思う。これはぬけ首ではなくてろくろ首ではないかと思う。ところが複数の妖怪絵巻で「ぬけ首」と表現されている。一方鳥山石燕の絵では「ろくろ首」が採用されている。

 伸びている首の描写が興味深い。全然首の太さではない。飴を伸ばしたように、細くなっている特徴が様々な画像で認められる。イメージとしては「頭が胴体から外れているけど、細い紐のようなものでかろうじて引っ付いている」。という感じだ。だから「ぬけ首」でいいのだという。…石燕も、首をものすごく細く描いているが、名前は「ろくろ首」だった。どうもわからない。

 因みにろくろ首の名の由来を間違っている人がいる。焼き物を作ろろくろの上の粘土のようにグニャグニャ首が伸びる…のではない。漢字で書くと「轆轤首」轆轤とは、傘を開くとき、内側からつかんで柄の反対側に押し出す部分のことらしい。一瞬ですっと首が伸びる(離れる)から、ろくろ首というのだそうだ。

 ところで、ろくろ首にはもう一つ漢字がある。「飛頭蛮」というのがそれで、中国からきた言葉だ。頭を飛ばして昆虫を食べる蛮族のことで、普段は普通の人間と変わらないが、首に紫色の筋があるので見分けがつく。夜になると頭を飛ばす。ということは、ろくろ首とぬけ首はほとんど同じものを指している、と言ってよさそうだ。

 ここまでくると海外の「ペナンガラン」や「チョンチョン」とも話が似てきて、現在よく目にする解釈は、「離魂病」実は無意識に幽体離脱する病気ではないか、とまで言われている。つまり首が伸びたとか、頭が飛んだとかいうのは、離れている張本人の感想なのだということになる。だって横から見たら寝ているだけだから。

 あまり書かないが性的なものになぞらえた話や絵画も多数存在する。首というか、解釈が糸のようにこんがらがっている妖怪なのだ。

 松の木は、「首を長くして待つ」の洒落で描いた。深い意味なない。

図:佐脇嵩之『百怪図鑑』より