服もはだけ苦しそうに舌を出しながらなお走っている姿で描かれている妖怪。憑りつかれるとどうなるのかを…説明する必要はないだろう。
江戸では、忙しさ自慢は野暮だと言われたらしい。「忙しいという字は、心(=りつしんべん)を亡くすと書きますよ」というのは有名なお説教。だから忙しがっている人には妖怪がついている、と言う事になったのだろう。
いつの時代も、忙しい人は報われない。よく考えると、「怠け者を揶揄するような妖怪」を思いつかない。怠けるのは人間としては自然、頑張りすぎるのが不自然、と言う事なのだろうか。人間の本質から遠いものが妖怪となる。じゃあ人間の本質は怠け者、と言う事になるが…まあそんな気はする。
少なくとも今の社会では大活躍している。時短時短と言って節約した時間には新たな仕事を詰め込む。定時に帰れと言い渡される一方で期日までに仕事を終わらせなさいと言われる。気が付けば退勤を装いサービス残業の日々。ワンオペだのブラック企業だの、その実態は多数確認されている。過労死という言葉まで生まれ…江戸時代には決してそんなことはなかっただろうが…命まで奪う妖怪となった。
図:尾田郷澄作『百鬼夜行絵巻』より