漢字としては「獣獣坊」だろうか。江戸時代には、殺生や肉食の禁を平然と破る僧侶の話が、あるときは滑稽にある時は禍々しく語られるが、実際かなりそういった禁忌は特に市中では緩くなっていたのが現状だろう。釈迦は亡くなる直前に「滅法」の到来を自分の死後千年と見積もったが正確な推論だったと思う。獣の肉をうまそうに食べ、色におぼれ、金に執着し、心まで獣になった坊主を妖怪としたということだろう。「毛が無いのは頭だけ」という皮肉のきいた姿で描かれている。
赤い腰巻は歌舞伎の影響を受けて流行ったもので、遊女かそれをまねた庶民の女が着るもの。そのイメージ一つとっても、この妖怪の性格がわかる。ちなみに元の絵には目立つように乳首も描かれていて、より獣をイメージさせる。接吻でもするようにすぼめた口も、暗示的である。
お坊さんは現在のほうがモラルが守られているように思う。現代は「僧侶」である前に「社会人」であることが求められるからだろうか。性に関するルールが昔よりも厳格化したこともあるのだろう。代わりに「かねかね坊」は増えたかもしれない。位の高い人のほうに。
描き加えたのは「すき」。まあ、名前が「じゅじゅう坊」という、まかり間違えば焼き肉屋みたいな名前だから。多忙な関西人としては、近頃すき焼きが恋しい。
図:尾田郷澄作『百鬼夜行絵巻』より