古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

2020-01-01から1年間の記事一覧

#046 青女房 あおにょうぼう

青女房 青女房という言葉は本来なら若くて官位の低い女官を指す言葉。鳥山石燕の『今昔画図続百鬼』の説明によれば「荒れ果てた古い御所に棲む女官の姿をした妖怪で、ぼうぼう眉(剃っていない眉)で鉄漿をべったりと付けて、人が立ち入ると様子を見に来る」…

#045 黄粉坊 きなこぼう

黄粉坊 きなこがどうして妖怪になるのだろう。 黄粉は、「黄の粉=きのこ」の「の」が音便化して「な」に転じた名称であるらしい。同様の例は「神の月⇒かんなづき」「水の月⇒みなつき」にも見られる。 奈良時代ごろに作られるようになり、室町時代には「黄粉…

#044 火吹き

火ふき 江戸は現在において、「火災都市」と言われるくらい火事が多かった都市だ(総数1798回)。大火事だけでも49回、同じ町を何度も火事が襲うということは世界的にも珍しいのだとか。当然、火をつける妖怪が創造されてもおかしくなはい。また「火事と喧嘩…

#043 撫坐頭 なでざとう

撫坐頭 坐等(=座頭)とは、江戸時代の盲人の階級の一つ。もっと広義に、按摩、鍼師、琵琶法師などを呼ぶことも多い。元々は琵琶法師の称号「検校」「別当」「座頭」の一つであった。鎌倉時代から琵琶法師たちは「当道座」という共同体を形成し、活動をした…

#042 後眼 うしろめ

後眼 後頭部に目を持った僧形の後ろ姿に、鈎爪が一本だけついた腕のようなものが描かれた妖怪。正面に目や顔があるのかないのかは元の絵では不明である。 妖怪のイメージは湧きやすい。背後というのは人間の絶対的な死角であり、相手の背後に位置をとる限り…

#041 ぶかっこう

ぶかっこう 一番最近の表記は「ぶかっこう」。少し前まではどの研究本にも「ぶっ法そう=ぶっぽうそう」と書かれていたが。崩し字というのは、後の世の人間にとっては大変難解なものであるらしい。「ぬらりひょん」「おとろし」然り。 仏法僧とは三宝と言っ…

#040 五体面

五体面 顔から手足が生えた姿で描かれた妖怪。「面」から「五体」が生えているから「五体面」と言うのだろうか。でも頭がないから四体面なのではないのか。 「〇〇に手足が生えたような」という言い方がある。一つの物事に一辺倒な性質を意地悪く言った言い…

#047 覘坊 のぞきぼう

覘坊 先の投稿で江戸の僧侶の没落を描いたばかりだが今度は軽犯罪行為に及ぶ坊主が出てきた。妖怪でも何でもない、本当にこんな人が居ただけなのではないか。もともと垣根の隙間から気になる女性を見るという行為は「垣間見(かいまみ)」と言って平安時代に…

#039 じゅうじゅう坊

じゅうじゅう坊 漢字としては「獣獣坊」だろうか。江戸時代には、殺生や肉食の禁を平然と破る僧侶の話が、あるときは滑稽にある時は禍々しく語られるが、実際かなりそういった禁忌は特に市中では緩くなっていたのが現状だろう。釈迦は亡くなる直前に「滅法」…

#037 どうもこうも

どうもこうも こんな話がある。「どうも」という医者と「こうも」という医者がいた。二人は共に優秀な外科医だったが、どちらが一番の外科医かということで話が合わず腕比べをすることになった。まず「どうも」が「こうも」の首を切り落とし(!)、それをあ…

#035 いそがし

いそがし 服もはだけ苦しそうに舌を出しながらなお走っている姿で描かれている妖怪。憑りつかれるとどうなるのかを…説明する必要はないだろう。 江戸では、忙しさ自慢は野暮だと言われたらしい。「忙しいという字は、心(=りつしんべん)を亡くすと書きます…

#034 馬鹿 うましか

馬鹿 馬と鹿、どっちにも似ていない姿で描かれている。 生き馬の目を抜く世知辛い世間。「ウマくやらないと馬脚を現し馬鹿を見るよ」と忠告しても相手は馬の耳に念仏。失敗したところで馬耳東風。馬鹿につける薬はなかったか、しかし馬鹿と鋏は使いようだか…

#033 あすこここ

あすこここ 名前の意味は、「あっちこっち」「あちらにいたかと思えばこちらにも」という意味。瞬間移動する妖怪なのか、それともあちらこちらにいる妖怪なのか。黒い雲か煙の中に複数の妖体が見え隠れする絵が描かれている。各妖体の姿形はバラバラだ。 こ…

#032 にがわらい

にがわらい 苦笑いしている妖怪。苦笑いには、「不本意な状況を受け入れる」感情が伴う。「苦い」気持ちを「笑いで」乗り越えるわけだが、「笑い飛ばす」ほどの力がない。「苦味は残る」のだ。そのあたりが妖怪的なのだろうか。 松井家の百鬼夜行絵巻は、絵…

#031 逆髪

逆髪 熊本県八代市にある松井家に伝わる「百鬼夜行絵巻」ほど、ユニークな妖怪絵巻もないのではないか。伝説も知名度もない「謎の妖怪」のオンパレードである。日本古来の存在ではないが、魅力的な妖怪たちが多数描かれている。 ここからは自分なりの解釈で…

#030 髪切り

かみきり 江戸時代に実際に多発した事件がもとになって描かれたと思われる妖怪。夜中に道を歩く人の髪の毛…髷や元結を切り落としてしまう。男女の見境もなく襲われ、切り落とされた髪の毛はそのまま地面に落ちている。よほど鋭利な刃物を使うのか、髪を切ら…

#029 猫股 ねこまた

猫また しっぽが割れていないのである。最初に思ったことはそれだった。尻尾が又に分かれるから猫またというのかと思っていたが、少なくとも妖怪絵巻のそれは一本しかしっぱが描かれていなかった。化け猫のことを猫股とも言い、尾が分かれているかどうかは大…

#028 野狐

野狐 狐と狸では、その化かし方が根本から違うように思う。自身の肉体を術によって変形させ、実際に別の物に変身し、相手を化かしにかかるのが狸。それに対して、自分が化けるというよりも相手に術をかけ、幻覚を見せて化かすのが狐。だからこの絵も「狐が化…

#027 雪女

ゆき女 誰でも知っている妖怪だが、なかなか奥の深いことになっている。基本的には雪の精が女性の形をとって姿を現し、自然が起源の妖怪の常として、時には恩恵を授け、時には激しく祟る。雪の降る地方に多く伝説が残るのは、当たり前の話と言っていいと思う…

#026 ふらり火

ふらり火 これもまた、ビジュアルと名前以外の情報も、伝承も説明もない妖怪。周りに様々な鳥を従えて飛ぶというのは、もちろん後付けの設定だ。 火の妖怪であることには疑問はない。火の妖怪はどれも似たり寄ったりで、見た目は火の玉である。そこで出現す…

#025 幽霊

幽霊 「…幽霊は妖怪じゃない!」という思いはあるが、佐脇嵩之の『百怪図鑑』には載っているので紹介する。気付く人は気づいていると思うが、この「怪説」は今のところ「百怪図鑑」の妖怪をそこに描かれている順に描いていっている。さらに他の有名な妖怪絵…

#024 目一つ坊

目一つ坊 どこで聞いた話だったか。たぶん最近の妖怪の研究本なのだが、比叡山の僧がその死後も弟子の修業を見守るために一つ目の鬼となって僧坊を周った。特に居眠りを戒めた、という情報をもとに描いた。右上に描いたのは天井からつるす「魚板(ぎょばん)…

#023 牛鬼

うし鬼 西日本を中心に伝説として伝わっている妖怪だがその物語を聞く限り、または各地に残されている牛鬼祭りの山車や民芸品を確認する限り妖怪絵巻に描かれた形状とはかなり異なる妖怪であるように思われる。 伝説での姿は「ウシオニ」と聞いたら誰でも自…

#022 赤口

赤口 見ての通り、大きな赤い口が特徴の妖怪。このビジュアルを知っている人は多いと思うが、にもかかわらず伝承のある妖怪ではない。昔妖怪図鑑で読んだ「長い舌で水門を操作し村の水争いをたしなめた」という話は少なくとも昭和になってから結び付けられた…

#021 うわん

うわん 絵巻物に姿が残るだけで伝承はない妖怪。江戸時代に描かれた妖怪にはそのような性質のものがとても多い。戦後の妖怪本には「うわん、と大声で脅かす妖怪」「墓場に出る妖怪」のみならず「うわん、と言い返さないと棺桶の中に引き込まれる」など、なん…

#020 山わらわ

山童 やまわろ、のこと。山に出現する妖怪で、伝説は多くあり、河童と一部を共有している。夏は川にかいって河童となり、冬は山に入って山童になるというような、両者がほぼ同一のものとされている伝承もある。山で仕事をしている人のもとに現れ、重たい木を…

#019 ぬけ首

ぬけ首 まず初めに名前とのギャップに驚く。「首、抜けてないよ!」と思う。これはぬけ首ではなくてろくろ首ではないかと思う。ところが複数の妖怪絵巻で「ぬけ首」と表現されている。一方鳥山石燕の絵では「ろくろ首」が採用されている。 伸びている首の描…

#018 犬神

狗神 主に瀬戸内~九州地方でいうところの犬神と、妖怪絵巻などに描かれる犬神が、同じ妖怪とは思えない。四国九州のほうは「イヌガミ」とは名ばかりで、その姿も生態も殆ど犬を連想させない。強いて言えば「家に飼われている神様」といったところか。 妖怪…

#017 山姥

山姥 山奥に棲むという老婆の怪。野生の熊も顔負けの怪力を持っていたり、変身するなど妖術を使ったりと太刀打ちできる相手ではないので、正面から戦って人間が勝った話はないと思う。(お坊さんがうまく騙して小さくさせ、餅に引っ付けて食べてしまった話が…

#016 夢の精霊

夢の精霊 資料によって、「夢の精霊」「骨の精霊」と意見が分かれるが、幾つかの説話集から読み取れる情報から推察して、「夢の精霊」と解釈する。 有名な説話。滋賀県は琵琶湖でのお話。ある僧が、加茂神社の供物用に捕らえられた大きな鯉を不憫に思い、大…