古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

137 #鬼女紅葉

長野県は鬼無里(きなさ)村に残る伝説。

詳しい内容は鬼無里村のホームページでも紹介されている。

西暦にして1000年少し前、ワケ有って都を追われ、鬼無里村で暮らしていた紅葉と云う女性が、盗賊とつるみ、近隣の村を襲い、集めた金で都に攻め上る計画をたてたと言うことで「鬼」として退治された。

美人で頭が良く、琴の名人で、薬学の知識に明るく、優れた妖術使いでもあったと云う。

最終的には一族全員退治されてしまうのだが、そこに至るまでに都の軍勢をこれでもかと言わんばかりに妖術で翻弄する。

何年か前、戸隠山に旅行した帰りに鬼無里村に寄った。地元では京都の文化や薬学の知識で村を豊かにしたカミサマ、と言う扱いを受けていた。その頃から、いつか絵にしたい、と考えていた。

基本の姿は鳥山石燕の百鬼シリーズ「紅葉狩」をそのまま踏襲した。手に持っているのは銚子。宴会の時に酒を注ぐ時に使う。鬼なのでキングサイズを持たせた。あとは、あまり妖怪色を前に出さず、田舎に住む没落貴族が一張羅を来て現れた感じで。享年33歳。気苦労もあり少しく老け、食い縛り続けた顎が発達し…。あとは、彼女が紅葉を名乗ったのは、髪の色が黒くなかったからかもしれないな、だから妖術を使うと言われたのかも知れないな。などと連想し「鬼は異人だった」説を思いだし(冷静に考えれば平安時代に白人が都に居た可能性は殆どないが、東北には全員碧眼金髪白肌の村があったとも言うし)、描きたい情報の整理に数年かかった気がする。細かく書くのもなんだから省くが、服の紋様にも様々思い悩んだ。

旅先で、鬼無里村の方が言っていた。村会で、近年の妖怪ブームに乗っかり、紅葉をキャラクターにしての村興しの話も出たが、紅葉はこの土地の守り神のようなもの、金儲けの手段にするのは烏滸がましい、と言う話になったそうだ。鬼無里では彼女を、災いをもたらす鬼ではなく、都の文化を伝えてくれた存在として、『鬼女』ではなく、『貴女』と呼んでいる、とも聞いた。

土地のカミと住人との関係は、いつまでもそうであって欲しい。